『21gのモノローグ』3.Episode of khromat

【2014 Lilly

美大に落ちた
散々闘って、散々蹴落として
でも私は貧乏育ちだったから
受けられるのは1校のみ、浪人は不可能
そんな中で大手の大学を受けて、落ちた

もちろんそのストレスは大きく
今度は、至らぬ自分の感性との闘いが始まった
ひたすらに哀しかった
ひたすらに苦痛だった

それからは写真屋でバイトをしながら
知人のバンドの美術担当
及び、楽曲制作やレコーディングに意見をする立場として
忙しくも、心安らぐような毎日を過ごしていた

そんな中、家庭を持つ姉からメールが届いた

母親が家賃を滞納している
うちはもう過去から支援してきたからこれ以上は無理
選択肢を選んでいる場合じゃない
早く就職しろ
それができないならホームレスにでもなれ

そんな内容のメールが届いた
母親は
美大に落ちた私に負担をかけさせまいと隠していた
初めて知った私は、就職の準備を始めた

大きな闘いに敗北し
傷を休める間もなく
次の試練が目の前に迫ってきた
無情に、無情に

その時、
自分の内側に現れた人がいる
私は驚いて声をかけたが
向こうも驚いていた



幻聴、幻覚の類じゃない
自分の中に、別人が確かに居る

彼女の名前はリリー
そして、彼女のこれまでのことを聞いた

多分、別世界
こんなこともあるもんだね
生きている世界が違うにも関わらず
私の心の内に現れた

だからと言って、誰かに見える訳でもない
私は彼女の存在を隠しながら暮らし始めた

その生活は私の首を絞めながら
また、彼女にも癒されていた

動物が大好きな彼女が内側に居る影響か
私も動物に好かれるようになっていった
お散歩中の犬にやたらと懐かれたり
家にやってきた虫と想いが通じたり

私たちだけの安寧
私たちだけの
私たちだけの


【2015 unbraver】

暗雲が立ち込めていた
まだ何も準備が整わないまま
制作関係の会社の面接に向かった

とにかく急な氾濫だったため
バイト先の店長にも急に知らせて
迷惑をかけてしまった

面接を受けた会社は社員10人程度の小企業で
13人面接を受けたというが、その中の1人として就職した

写真スタジオが併設された会社で
どうにかして芸術関係に居たかった私は
カメラマン希望で
ベテランの50代カメラマンの元でアシスタントを始めた

彼とはとにかく感覚が合わない
「古き悪き」見て盗めの職人世界は合わない
怒鳴られて支配される世界は合わない
私が感性や直感や森羅万象の摂理を重視する一方
カメラマンは数学的で計算的な人だった
言うなれば、芸術家タイプと職人タイプの軋み

教えを求めたり、雑談をしても
到着地点は同じなのに、その過程がかみ合わないから
どうしたって摩擦が生まれ
立場の低い私は毎日怒鳴られるばかり

ある日、いつも通り彼の言葉が理解できずモヤモヤしていると
「写真ができないならお前は絵も本当は描けないんだろう」
「詐欺師だ、絵が描けるなんてのは嘘っぱちだ」と言われて
私の全ては崩壊した

心身を投げ打ってのめり込んだ芸術世界
朦朧した毎日や
吹き出した涙や汗や血や
蹴落としてきてしまった友達や先輩の顔が浮かんで
簡単に言えば、トラウマが甦って崩壊した

喜劇的に言えばチャップリン
のたうち回って家に帰って
すぐさまリリーに助けを求めたが
心の内も変わっていた

リリーがリリーじゃない
誰だお前は
誰だあなたは
ごめんなさい、許してください

そこに彼女が現れた

彼女が全てを救ってくれた
イザベラが、全てを救ってくれた
彼女の事もまた、隠しながら暮らし始めた



【2016 麗らなる悠久】

うつ病がだいぶ良くなってきた
橋の上に、夏の風がひとつ
少し笑えた
昨年には跳び下りることもよぎったその橋
今じゃ微笑みに変わった

この目に映る世界も
輝きを得て行って
見えている景色そのものが変わっていった

この感覚、一体何年失っていただろうか
一時は45kgまで落ちていた体重も
52kgになり、やがて60kgまで増えてきていた

営業部として、社長直属の部下となり
毎日を生き抜いていた
大切に確かめる、認められる喜びや
反省点や、「まとも」感

この頃から、自らの内側にはあまり帰らなくなっていた
二人の助けが無くとも生き抜ける証明
その力が欲しかった

そんな私を、二人はただ見守ってくれていたと思う
時々イザベラに背中を押してもらいながらも
基本的には一人で活動するようになっていった

また、作詩を長年していたので
YouTubeチャンネルを立ち上げ、朗読していく活動も始めた

【2020 人慈しむアマビエ】

2020年、私は会社を退職した。
睡眠はまともにとれずとも、生活は安定していき
そこにどうしようもない不安を覚えたのだ。

このままで、このままで良いのだろうか
まともに働き、まともに安定していき
芸術を切り捨て、過去にして、虚しい幸福に向かっていくのだろうか。

リリーとイザベラにも相談して
覚悟が決まった。

私は生活も幸福も切り捨て、芸術に帰る。
自分の中の表現者たる部分が、安寧など望んではいなかった。

そして私は、4年ぶりに絵画を描き始めた。
ひとつひとつの感覚にただいまを言うように
帰ってきたことを噛み締めるように描いた
その、復帰1作目が「人慈しむアマビエ」。

感覚が鈍るどころか、進化していたことに驚いた。
何せ、4年間も一切絵を描いていなかったのに。

二人がとても喜んでくれたので
私は舞い上がった。

【2022 個展、ペシミズムの光】

芸術に振り切ってからの2年は地獄あり、わずかな光ありだった。
さらに精神を壊したが、リリーとイザベラとの関係は深まっていった。
強がったりせずに、素直に頼り頼られ、切り替わることも可能となった。

しかし、切り替わることは身体への負担が大きかったので
必要な時以外は、今まで通りに暮らすことにしている。

現実と精神内を別々に考えるのではなく
三位一体となるべく、強く手を取り合うことを意識して8か月ほど
私は個展開催のチャンスを得た。
まさか個展を開催できるなんて考えたこともなかったので
三人で大喜びした。

同時に、様々な過去や一緒に過ごしてきた時間
意見の相違などもありながらの、今たどり着いた一体感
とてつもない感謝の気持ちが湧いてきた。

悲観的な人間がようやく見つけた確かな光。
そんな意味を込めて「ペシミズムの光」展とすることに決定。
また、ここまで連れてきてもらった二人への感謝として
個展のメイン絵画はリリーとイザベラである。
メインビジュアルには、インパクト重視でイザベラの絵にした。

ここまで、ここまで一緒に来たね。
たくさんのフォロワーさんや、通りすがりの人も来てくれた。
見たかった景色が、感じたかった空間が私たちを包んで
それを大切に抱きしめる。

この先は、どうなっていくんだろうね。
でもあまり余韻に浸る間もなく、いろんな有り難い予定が決まっていくし
その光に向かっていかないとね。

私たちは一緒。
今までも、これからも一緒。
大好きだ、最高だ。

【絵描きさん、みんな仲間!】

私クロマトは、すべての絵描きさんを心より応援しております。
上手い下手も、初心者でも何でも関係ありません。
私だって、まだまだ駆け出しの身。
肩を並べて、あなたと一緒に進んでいける事を願っております。
この記事を見ていただいてありがとうございます。

クロマト

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